白銀の景色に、シルエット。
一輪の向日葵を





『ねぇ、航(ワタル)。覚えてる? 今日は私達の三年目の日だったんだよ…』


 ──あの日の事を、よく後悔する。

 寂しそうな彼女の声は、ずっと遠くにあった。


『航にとっては何とも思わない日かもしれないけど、私にとっては凄く大切な日なんだよ』


 何とも思わない、なんて事はなかった。

 俺だって、今年こそはって思ってたんだ。でも仕事は仕事で、まだまだ新米の俺にはその仕事を断るだけの術もなくて。

 お前に生涯を約束するには、どんな仕事も請け負って地位を築かなければならなかった。


『ワガママだって分かってる。でも、こんな特別な日に…』


 寂しそうで、どこか泣きそうなお前の最後の声を──言葉を、俺は謝罪の言葉をぐだぐだと並べて一方的に電話を切った。


 あの日、お前の元に行ってやれば良かった。仕事より何よりお前の元に行けば良かった。


 そうすれば、あんな事にはならなかった。


 お前は今も俺に笑いかけてくれていた。柔らかな声で、俺の名を呼んでくれていた。


“航”


 今ではもうお前しか呼ばない下の名前は、久しく聞いていない。


 俺にはもうお前だけだって、知っていたはずなのに。焦りと不安で、お前の感情を無視していたんだ。


 次々に溢れる後悔と自分への怒りは、行く宛もなく彷徨っている。

 そう、今も。








【一輪の向日葵を】
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