白銀の景色に、シルエット。
桜貝の恋模様





 悪気はなかったんだ。

 困った顔が見てみたかっただけ。本当に、それだけだったんだ。


 ごめん…。

 ごめんな、ティア…。















「こらー!! カイ~!!」


 母ちゃんが大きな声で追いかけて来る。


「宿題はもう終わったの?!」


 まーた宿題かよ。

 毎日毎日、同じ事しか言わねぇじゃんか。つまんねーの。


「いーだろ、別にィ! 宿題なんかするか!!」

「ちょっ、カイ?! 待ちなさいったら!」

「やーなこったー!!」


 待てって言われて待つ奴なんていねぇよ。

 捕まってたまるか、逃げきってやる!!


「はあっ、はあっ……」


 やっと逃げきったぜ。


 ったく。母ちゃんの奴、とことん追い回しやがって。

 こっちは用があるってのに。


 俺は、安満野海と呼ばれる海の大きな岩の裏までやって来た。

 いつも、ここで待ち合わせ。


 もう来る頃だ。そう思った矢先、ザバァッと海面から女の子が顔を出す。


「ティア」


 俺は少女の名前を呼ぶ。少女は、にっこりと笑った。


 俺、草津 海(クサツ カイ)。小学6年。

 勉強はダメだけど、野球はめちゃくちゃ得意!

 元気だけが取り柄って母ちゃんは言う。


 で、こっちはティア。多分、同い年くらい。

 明るくて、笑顔がよく似合う女の子だ。


 けど、実はティアは……。


「カイ。カクレクマノミさん達がカイによろしくって」


 カクレクマノミ…。あ、あのイソギンチャクの中にいる橙色の魚か。


「今日もみんな元気?」

「ええ、もちろん」


 ティアは……人魚だ。海の中の監視役。神様に命じられてるとか。

 本当は知られちゃいけないらしいんだけど、内緒って事で。


 俺が偶然ここに来たら、陸に上がってるティアがいて。


 一目惚れってヤツ?

 ティアから目が放せなくなったんだ。


 それからティアは黙ってて欲しいって泣いて。


 そんな風に俺達は出逢ったんだ。
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