あなたは講師
今日だけは、泣きたくないよ。
ようちゃんの顔が涙でボヤけたらもったいないでしょ?

だから、優しくなくていい。今日は、優しいようちゃんじゃなくていい。
これでもかってくらい、意地悪で、最悪で、笑顔のようちゃんでいて欲しい。

私が『最悪!』って笑えるくらい、最低な人間で良いのに…ようちゃんはいつも、いつも、優しいね。
だから涙我慢できなくなっちゃうよ…。

「…ふッ…っう……」

いつの間にか、静かな理科室に私の泣き声だけが響いてた。
そして頭の上にはようちゃんの大きくて暖かい手がのっていた。

「…ようちゃんは、なんで優しっの…?」

涙で聞き取りにくいだろう私の言葉に答えるようちゃんは、本当ズルイって思うよ…。


「……ごめん…。」

「もぉ!なんでようちゃんが謝ってんの〜?」
涙の浮かぶ目でようちゃんに笑いながら言った。いつもの、今までの、冗談みたいに。

「…ごめ…ん…な……?」

ようちゃんは泣いていた。
それからは私もようちゃんも泣いた。ようちゃんの涙の理由は分からなかった。

だけど一緒に泣いた。



ようちゃんは『なんとなく』って言ったけど。


『なんとなく』なんかじゃなかったよね…?
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