空の少女と海の少年
◆第二章

◇空と海の力



──無数の花が咲き乱れる花畑に
春は座って青い空を見上げていた

胸一杯に空気を吸い込み、吐く

どこか懐かしいこの空間を
春は知っているような気がした

柔らかな風が通り過ぎた時
どこからか声が聞こえて
春は立ち上がると周りを見渡す


「……誰かいるの?」


誰もいない花畑に向かって
小さな声を投げかける

ふわりと懐かしい香りが
春の鼻をくすぐった


『春、久しぶりね。』


聞こえたのは凛とした女性の声

初めて聞いた、知らない人の声


『そうか……私の事は覚えていないんだったな。』

「あなたは誰?春の知ってる人なの?」

『ああ、春が幼い頃から私はずっと一緒にいた。春の事なら何でも知っている。』

「何でも?じゃあ教えて……春の力は何なの?空って何?」


春の不安げな声に風が止んだ

悲しそうに目を伏せた春は
ギュッと拳を握り締めた


「あの人は言ってた。空と海は邪魔だって。だから……殺すって。そのせいで奈々も陸も海斗も……。何なの?春は……春は何なの……っ!」

『春は邪魔ではない。私達には春が必要だ。春がいるから、私達は存在していられる。』

「何……それ?分かんないよ……。」

『……時間だ。春は起きなければいけない。』


その言葉と共に
懐かしい香りが離れていく


「待って!行かないでよ!」

『いい?起きたら私の名前を呼んで。私の名前は──』


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