スタッカート
15
「ほら」
頭上から投げやりなその声が聞こえて、俯かせた顔はそのままに、視線だけ上に向ける。
ゆらゆらと揺れるイルカが、きらきらした瞳で私を見つめていた。
顔を上げて、こちらを見下ろすその目を捉える。
不機嫌そうな表情
摘むように目の前に出された音楽室の鍵。
「何じろじろ見てんだ」
……そう言って眉を寄せた佐伯は小さく舌打ちをすると、机の上にのせていた私の手を取り、そこに無理矢理鍵を捻じ込んで自分の席へと戻っていった。
その背を見ながら、ため息を吐く。
何だか、いつもよりも態度がきつい気がするのは気のせいかな……。
目線を落として、自分の掌に収まるイルカを見る。
澄んだ瞳がこちらを真っ直ぐに見つめていて
なんだかものすごく、切なくなった。
―彼は今でも、トキのことを許していない―
昨日のハチさんの言葉が、頭の中でぐるぐると回る。
トキの過去と関わった佐伯。
消えない記憶。
あの日
トキをにらみつけた、佐伯の鋭い目。
……私はまた、他人の“傷”に
触れようと、している。