短編置き場・3
蜘蛛は、前の四本足を天に高々と上げると、そのまま動きを止めた。

月に向かってそそり立ったそれは、やがてちからを失い、後ろ向きに倒れていった。

ドォーンッ!

天地を揺るがす轟音の後、舞い上がる土ぼこりに男は視界を奪われた。

しばらくして目を開けると、男はいつもの、寝床である軽バンの、倒したシートに身を横たえている自分を発見した。

隣ではコムギコがうっすら目を開けて、不思議そうな顔でこちらを見ている。

のろのろと身を起こした男は、引き出しを開けて中を確認した。

昨日の拳銃はなくなっていた。

フロントガラスの向うの世界では、遠く、闇を切り裂いて朝日が昇ろうとしている。

それは、いつもと同じ、変わらぬ夜明けだった。


      おわり



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