つま先立ちの恋
「ごめん、和泉。私やっぱりあんたの気持ちには応えらんない」

「…何、いきなり?」

「…いい加減はっきりさせとかなきゃと思って。もう違うならいいの。…て言うのもなんか違うか。うん、違うな。そうじゃない。ごめん。

だけど、知っておいてほしかったって言うか、言っておかなきゃと思ったから」

和泉がゆっくり首を巡らせて私の方を見た。黒い瞳が私を捉える。

「今更?」

……だよね。私もそう思う。だけど。

私は突っ立ったまま、続けた。

「私、やっぱりフーが…あの人が好きなんだ。もうママゴトなんて言わせない。本気で好きなの。本人にもそう告った」

和泉がため息をつく。それでも私は続けた。

「あの人は大人だし、私より12コも上だし、あの人にとって私はまだまだ子どもだけどさ…。だけど、私はあの人が振り向いてくれるようないい女になるって決めたんだ。あの人を追いかけて行くって決めたから。この気持ちはきっと、ずっと変わらない。だから、ごめん。私はあんたの気持ちには応えられない」

お腹から体を折り曲げて深く頭を下げる。

「今まで…ごめんなさいでした!」

額と膝がくっつくかと思うくらいくっつけて、私は和泉に謝った。


そうしたら、

「………いいよ、もう。」

いつになく優しい声がして顔を上げたら、和泉はまた窓の外を眺めていた。

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