つま先立ちの恋
†いつかのメリークリスマス
思えばロクなことがなかった。あの男と出会ってから。



会場であるホテルのロータリーが見えてきた。それを目を上げて確認する。


「帰りはいい。」

それを受け取った柏木が、ミラー越しに運転席から目で俺を振り返る。

「構うな。こんな場所に俺も長居するつもりはない」

正直、うんざりだ。会社だろうとプライベートだろうと、人の集まる場所に興味はない。それに今年はどうせ招かれざる客だ。元·会長の孫でありながら墜ちた俺の存在など……―。

そこで思考を区切った。

時折こうして昔の自分が顔を出す。人間はそう簡単には変わらない、変われないのだとまるで言い聞かせるように。


「…どこまでも面倒な男だ」


それでもまだ、笑えるだけマシか。

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