つま先立ちの恋
会場は地上31階、会社の重役が集まる場として10数年、年末は必ずうちのグループが貸しきっていた。

ここに立ち込める生温かい空気は何度経験しようとも慣れることはない。上辺を取り繕うだけの社交辞令と、相手の懐に入り込もうとする算段と、それを隠す為の華やかな彩り。その為だけに用意された密室。そこはまるで動物社会のように単純な世界。

このニオイと馴れ合うつもりは元よりない。けれど、それも昔の話か。

すれ違う何人かと形ばかりの挨拶を交わし、お互いの関係を探り合う。どちらがのし上がるか、どちらが蹴落とされるか。二者択一の取捨選択。それは思えばむなしい人生だ。


だが、背を向けることだけはごめんだ。男として生まれたのであれば。高崎の家に生まれた者であるなら尚更……―、生き残らなくては。


何が起ころうとも下を向いた時点で人生は終わる。顔を上げろ。下を向くな。

俺は高崎冬彦だ。

俺は誰にも負けない。


この名前を背負って生きていく為になら、俺はどんな傷であろうと舐め合ってでも生き残ってやる。


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