東京エトランゼ~通りすがりの恋物語~
あたしはハッとした。

「あのとき、あなた、あたしのこと“お菊”って言ったでしょ?」

たしかに言った。

あのとき、あたしが言ったのがきっかけで、それまで“クレオパトラみたい”って言われてた彼女が“お菊”って呼ばれるようになったんだ。

「アレ以来、クラスのバカ男子からは“髪の毛が伸びる呪いのお菊人形”って言われて、からかわれるようになったわ」

「ま、まさか……まさか、あのときのことを根にもって…」

忘れたわけじゃない。

けど、あんな些細なことがきっかけで、あれから7年経った今でも彼女に恨まれてるなんて夢にも思わなかった。

「あのとき、あなたにしてみれば、なにげなく言った他愛もないひとことだったのかもしれないけど、でも、あの後あたしは、みんなから “呪いの人形”ってさんざん呼ばれて、すごく傷ついたんだ」

「でも、あのときは着物姿のアンタがすごく綺麗だったから、褒め言葉のつもりで、あーいうふうに言ったんだよ」

「今さら、そんなこと言われてもね。アレ以来、あたしを“呪いのお菊人形”に仕立て上げたあなたに、いつか仕返ししたいって思ってたのに、そのあと、あなたはアメリカに行ってしまって、一度はあたしも諦めたわ…」
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