東京エトランゼ~通りすがりの恋物語~

ムースを塗ってはクシでとかすという行為を繰り返す度に、後ろ髪にからみつき、こびりついていた頑固でしつこいガムが、少しずつだけど確実に、魔法のように取れはじめた。

一度はバッサリ切るしかないと諦めていた自慢のロングヘアーが、魔法みたいな彼のプロの技で最悪の事態を免れることができるのかと思うと、ぶっちゃけタダの“アシスタント”だと彼のことをどこかバカにしていたはずなのに、前言撤回とばかりに、今は見直し、そして素直に尊敬しているあたしがいた。

「やるじゃん♪」

あたしはスッカリ上機嫌だった。

「たぶん大丈夫、って言ったろ?」

これが男のコの髪なら、そんなに時間もかからないのかもしれないけど、女のコのロングヘアーだと全部取るのは、かなり時間もかかるだろうし、骨だって折れると思う。

「全部取るのにまだけっこー時間かかりそうだし、ヒマつぶしになんで髪の毛にガムつけられたか話してあげてもいいけど、聞く?」

「そうだな、ヒマつぶしにはちょうどいい」

「なんか自分で言うのはいいけど、他人に“ヒマつぶしに…”なんて言われるとちょっとムカつくけど……ま、いいわ。話してあげる」


あたしは問わず語りの物語をはじめた。

ソレは日本に帰ってきてから今日までの実話のdigest(ダイジェスト)―――――
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