東京エトランゼ~通りすがりの恋物語~
あんまり美味しすぎるもんだから、ひと目も気にせず大口を開けて、パクパクと焼きあがったばかりの肉を放り込んでいくあたし。

「お前、うまそうに喰うのな。俺もわざわざ連れてきた甲斐があるってもんだ」

そう言ってビールをひとくち飲んで、また苦そうに表情を歪める彼。

「………」

今、あたしのクチは焼き肉を食べるためだけの専用アイテムになっているから、言葉をしゃべるのも、返事をすることも一切ムリ。

「それにしても、なにも泣くことねぇだろ? そんなに美味かったか?」

「ン?」

彼に言われて、おハシを持ったまま、右手の甲を目に当ててみると、たしかにいつの間にか泣いていたみたい。

でも、これはあまりの美味しさに感動したのはもちろんだけど、ただ単に焼き肉の煙が目にしみただけってことでもある。


「ねぇ、オトナのヒトたちって、あたしらが知らないところで、こんな美味しいもの食べてるんだ♪」

見渡すかぎり、お客さんはおじさん、おばさんだらけで、平均年齢が異常に高い店内。

たぶん今、お店のスタッフの人たちも含めて、店内にいる全ての人間の中で、あたしが一番年下だと思う。
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