アクリルの向こうのブルー
碧依という名の子

━━碧依の好きなこと

少女の名前は碧依。

海に囲まれた島で生まれて

海軍の街で育った。


潮風の香り、

波の音、

空と水平線が交ざり合う碧、

そして何より

水族館が大好きだった。

どうして水族館が

こんなにも好きになったのか

碧依は今、

思い出している


どうしてこんなにも、

水族館が落ち着くのか…



水族館の あの厚く冷たい

アクリルに額を当てると、

海の中に自分が取り込まれるような

そんな感覚で痺れていく。

周囲の音も聞こえない。

ただ 目の前の、

アクリルの向こうのブルーの中に

溶け込んでいくのだ。

穏やかに波打つ碧、

黄色やオレンジ

コバルトブルーや黒

あるいは白い縞

小さな魚達が舞い、

花火のような磯巾着と

水面の光を

反射する

珊瑚に囲まれて、

碧依は大きく

深呼吸をする。



   “私、
  泳げないんだっけ…”




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