空の神衣

やっぱりたまらない

 津也は李苑達と別れて家に帰ると、玄関で腰掛けて靴紐をほどく。

 普段ならいちいち紐をほどく必要などないのだが、疲労のために足が靴から抜けないのだ。

「…く、このっ」

 手にも力が入らず、指先が定まらない。

 そうこうしていると、後ろからトントンと足音がする。

「津也、お砂糖どこにある?」

「天袋だよ。取ってやるからちょっと待ちな」

 闇珠の声に、津也は振り向かずに答える。

 なおも津也が靴紐と格闘していると、闇珠が後ろから覗きこんでくる。

「慌てるからほどけないのよ。紐をしっかり持って」

 肩に手を置いて、耳元で囁くように闇珠は津也を諭す。

 その息にくすぐったさを感じながら、津也は言われた通りにゆっくりと紐を引く。

 ふと、違和感を覚えて尋ねる。

「闇珠、お前ちょっと背丈伸びてないか」

 闇珠は珠であって、人の姿は津也のイメージを投影した分身だ。

 その分身が成長することなど、有り得ない。はずだ。

 しかし、初めて会った時は、闇珠の声はもう少し下から聞こえていた気がする。

「私はツールよ。成長することなんてない。背が伸びたように感じるのなら、津也がそうなるよう望んだから」

 津也の肩に手を置いたまま、闇珠は言う。
< 179 / 264 >

この作品をシェア

pagetop