空の神衣
 アガートラームにとって、戦いは重要な意味を持つ。

 勝利した津也が消滅してしまうなど、我慢ならないのだ。

「行くな…貴様は、勝者として立たねばならん」

 しかし、アガートラームとて何ができるわけでもない。

 それでも、必死に津也を引き止めようとする。

「勝者の魂を冒汚すくらいなら…私が消えた方がましだ…」

 無念の思いにかられていると、突き立てた剣が青白く光る。

『あなたの願いは、何ですか』

「剣が…言葉を…」

 アガートラームは絶句する。

 王座についた時から手元にあったもので、特別な剣ではない。

はずなのだが。

『あなたの、願いは何ですか』

 アガートラームの心に語りかけるのは、間違いなく目の前の剣だ。

 なぜ、物言わぬ剣がこの場で言葉を発したのかは分からない。

 だが、そんなことはどうでもよかった。

 勝者の魂を救えるのなら、迷っている暇などないのだ。
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