君が為に日は昇る
『一、盗賊村の捨鬼』
その昔、この国には『侍』と呼ばれる人間達がいた。
ある者は名誉の為、ある者は国の為、ある者は誰かの為に。刀を振るい、そして滅んでいった。
これは、誰も知らない『侍』達の物語。




 ━君が為に日は登る━




着物は赤黒く汚れていて。

━喉が渇いた。

安物の無銘刀は血油にまみれている。

━水が飲みたい。

長く乱れた黒髪から汗が滴る。

━だが心地は良い。

夜の闇に姿を隠し、男は深く吸い込んだ息をゆっくりと吐き出した。
冬の冷たい空気が男の体に溶けこんでいく。

「や、やめてくれ。俺が悪かった。金はいくらでも出すから…!」

声の主は寒さからか恐怖からかガタガタと震え、ありきたりな命乞いの台詞を並べ立てる。

「ま、待て!待ってくれ!」

━さようなら。

上段から一気に振り下ろした刀は肉を斬り裂き、声の主を骸と変えた。
男の着物を赤黒い斑点が新しく染めあげる。

「お前も終わったか…夜太?さぁ、貰うもんを貰ってさっさとずらかるぞ…」

もう聞き慣れた声に男は声を返す。

「はい。頭領…」

月明かりが照らした男は幼さ残る少年であった。

『夜太(やた)』

齢十二の冬の事である。
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