君が為に日は昇る

『其の参、君が為に日は昇る』

こんなにも静かな世界の中で眩しい朝焼けに目を細める。


ここは、本当に戦場なのだろうか。


まるでこの広い世界にたった二人、取り残されたような。それでいて小さな世界の中に閉じ込められたような。


安定しているような。不安定なような。体が浮き上がるような泥の中に沈んでいくような。


不思議な感覚が。


「はぁ…。」

「ふぅっ…。」


些細な息遣いでさえ、小さな衣擦れの音でさえ、しっかりと耳に残る。


両手で握り締めたのは重厚な野太刀。右肩に載せたそれを叩きつけられれば一溜りもない。


全てを粉砕せんとする一太刀。


構えるは最凶の狼、陸野歳揮。


顔の横には水平にした日本刀。極限まで追求された切れ味は人間の体なぞ紙屑のように断ち切るだろう。


全てを切り裂かんとする一振り。


構えるは成長を遂げた黒間の青年。黒葉夜太。


捨てられ、拾われ、ただ人を斬る道具として生きてきた操り人形。


喜び、怒り、哀しみ、楽しみ。様々な感情に触れ、心を得た人形はやがて人間となり。


自らの意思で此処に降り立った。


全てはそう、自らの未来と、大切なものの未来を勝ち取る為に。


< 179 / 211 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop