君の手を繋いで

森を出て、俺達は家に帰ろうと歩いた。


勿論、俺も日向も全身ずぶ濡れで、俺はさっきまでは気付かなかったけど、スニーカーが水を吸って重くなっていた。

歩くたびにブシュブシュと音を立てている。


もう大分履いてたヤツだし、これでもう履きつぶしたな、と、そんなどうでもいいことをぼんやり思っていた。


俺は横目で右にいる日向を見た。


日向も相当ひどい状態だ。

紺色のポロシャツが、更に濃い色になっていて、日向の体にはりついている。


下着の線が見えて、少し焦って視線をそらした。

薄い色じゃなくてよかったと、少し安心した。


ふと、体の横で揺れる日向の左手が目に入る。

俺はそっとその手に手を伸ばして……やっぱりやめる。


なんかダメだ。


俺は日向の後ろを通って、日向の右側に移動した。


「……どうしたの?」

日向が不思議そうに俺を見上げる。


「……なんか、落ち着かねえから。日向の左側は、兄貴の場所って感じだから」


俺は、日向の右側に居る方がしっくりくる。

左側は、俺の場所じゃない。


すると、日向が小さく笑った。


「亮太も同じこと言ってたよ。私が亮太の左に立つと、わざわざ動いて反対側いくの。私の右に居ると、変な感じがするんだって」

「……そうか」


何だかんだで、兄貴も俺と一緒だったのか。


別々に日向のことが好きで日向と一緒にいても、三人でいるような感覚は、忘れられないんだ。


今度はちゃんと、日向の右手を取った。

また嫌がられたら、と少し不安だったけど、日向は振りほどいたりはしなかった。

そっと、繋いだ手に力を込めて握ってくれた。


久々に繋いだ日向の手はやっぱり小さくて、手を繋ぐということだけで、こんなにも距離が近く感じるということに、今になって気付いた。




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