ホットレモンの憂鬱

お好み焼きパーティーん時だってさ。

『大樹っ、ひっくり返して!私がやると崩れそう』

『どれ?』

大きく膨れ上がった生地を見事返すことに成功。

『さすがー。頼りになるね』

とかさ…。

さりげなく俺を立ててくれたり。立ててたかどうかは別として。



夏の終わりに海が見たいって、みんなで行った時だって…。

佇む俺の隣にちょこんと座り込んでさ、波打ち揺れ動く海をずーっと眺めてたよな。

『また来たいなぁ…』

淋しげに言うから、砂に埋まる真愛の手に、俺の手の平を重ねて。

『また来ような?俺、車出すよ』

そう俺が頬を緩めると。

嬉しそうに微笑んだ顔…、今でも脳裏に浮かぶよ。


俺と来たかったかどうかは別として。

1か月前、また来たいって言っていた海に連れ出した夜だって、寒くて真っ暗で。

『全然、海が見えない』

なんて膨れてたけど。

ちょっといい雰囲気だったと思うんだけどなー…。

あの時、なんで俺…。好きだって言えなかったんだろうな。


もう、あの頃みたいに戻れないのか。

もし戻れるんだったら、彼女になってとか…。

俺は贅沢言わないから。


だから、せめて笑ってて欲しいんだ。

そんな蔑むように、俺を睨まないでさ…?


その視線が、俺の弱り切った心臓を貫きそうで、すっごい苦しいから。


前みたいに笑い合って、普通に話しが出来るだけでいいんだ。

きっと、広がった傷口が縫い合わさって綴じて行くから。


これ以上突き刺さると、本気で痛い…。
< 13 / 50 >

この作品をシェア

pagetop