逢いたい時に貴方はいない
バーについてからは
何もなかったかのように、屈託のない笑顔で秋山さんは話始めた。
他愛もない話で
何を話したかは覚えてないけど、
訳のわからない不安感と、罪悪感から
知らないうちに解放されていたような気がした。

呑み始めて、
どれくらいたっただろう。
いきなりかしこまって秋山さんは
こう言った。
「これから、宜しく」
何が宜しくか
わからないけど、
秋山さんのペースに釣られて思わず私も
「こちらこそ」と、言いかけたとき、電話がなった。

あ、お母さんだ!
こんな時間になんだろう…
「もしもし?」

その電話は
猫のミー子の死の連絡だった。


「うん、すぐいく…」
電話を切ると…
『どうしたぁ?』と、スカサズ聞いてくる秋山さん。

「ごめん、私帰らなきゃ…猫が死んじゃって…」

秋山さんが
何か言いかけたのも
聞かずに
慌てて店をでた。

店をでてすぐの角を曲がると細い路地に入った。

いきなり腕を引っ張られて私の体は勢いよく後ろの方へ倒れそうになった。


振り返ると秋山さんがいつもとは違う優しい表情で立っていた。

「あ ごめ…」
言いかけた瞬間、
秋山さんが覆い被さるように近づいてきて
私の体を引き寄せ
キスをした。

(な!なに?)


『気をつけて帰れよ』
「う…うん」
私はそのまま振り返ると駅まで、走った。




いったいなんだったの?今のキスは…

よくわからないけど、今 
凄く胸がキュンとした気がした。


なに?


よくわからないよ!



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