粉雪
―――次の日、病院に行った。


隼人には、“来なくていい”と言って来た。


隼人がこの罪を背負うことはない。


あたし一人の胸に秘め、全部背負い込めば良いだけの事。


ずっとそうやって来たから。


今回だって、大丈夫。



今考えると、この時のあたしは狂っていた。


あたしだけじゃない。


隼人も同じくらい、いや、それ以上に狂っていたんだと思う。



あたし達の道の先は、いつまで経っても真っ暗闇で、

光なんて求める方がどうかしてる。


隼人と付き合うときに、全部覚悟したことなんだから。



後悔と、罪悪感が襲った。


だけどあたしは、その全てに蓋をして“隼人の女”である道を選んだ。



ねぇ、隼人…


あの時の赤ちゃん、産んでれば良かったね…。


そしたらあたしは今、一人ぼっちじゃなかったのにね。



新年を目前に控え、あたしは自分の赤ちゃんを殺した。


愛した人の子供なのに…


…産んであげられなくてごめん…。


全てが終わった病院のベッドで、あたしは枕に顔をうずめた。



お腹の痛みはこれが現実であると教えてくれ、その所為で余計に心が痛くなる。


部屋の外から聞こえる赤ちゃんの泣き声も、人々の喜びの声さえも、

あたしの胸を締め付けて。


だけど、涙はこの場所に置いて帰るんだ。


隼人の前では、何事もなかったようにしなくちゃいけないんだ。


それで隼人が苦しまずにすむなら、それだけで良い。



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