粉雪
―――着いた場所は、前に一度だけ隼人と来た海。


その場所に、隼人の遺骨の一部を撒いた。



ねぇ、隼人…


ゆっくり海でも見てね…?



隼人は灰になって空に舞い、風と一緒に消えて行った。


波が穏やかで、まるで隼人が笑ってるみたい。





『…何で、海なんだ?』


「…隼人はゆっくり海なんか眺めたことがないんだって…。」


『…そう。
でも今は、俺と居るアンタ見て、気が気じゃないかもな。』


風に舞う灰を見ながら、マツは少しだけ笑って空を見上げた。



「ははっ、そうかもね。」


沈み行く西日が、やけに眩しかったことだけは覚えている。


いつかのあの日と全く同じ景色なのに、隣に立つのは隼人じゃない。




『…もぉ“一緒に逝きたい”って思わないの?』


「…良いよ、散々待たされたんだし。
少しくらい待たせたって、あの人怒らないよ。」


『…そう。』


マツは、それ以上何も言わなかった。



ねぇ、隼人…


そっちは寂しい…?



あたしも寂しいけどさぁ、もーちょっとだけ待ってよ。


あたしがそっちに行ったら、イッパイ相手してあげるから。


死ぬことは簡単だけど、あたしはもぉちょっと生きてみようと思うんだ。



ねぇ隼人…


こんなこと言ったら、あたしのこと怒る…?



海を眺めていると、自然と“死にたい”と思うことはなくなった。


あたしが死んだら、マツは本当に“独り”になってしまうから。


独りの寂しさは痛いくらいに分かるから、あたしにはそんなこと出来ないんだ。


ごめんね、隼人…




< 257 / 287 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop