粉雪
『…てめぇ、俺の話無視すんじゃねぇよ!』


煙草を咥えたマツは、あたしに睨みを利かせた。


どうにもマツは、気が短い。



「…ねぇ、マツ…。
その顔、怖いからやめてくれない?
聞きたいことあるんなら、お店終わってからにしてよ。」


それだけ言い、マツに背を向けた。



『―――ねぇ、マツさん!
マツさんのタイプってどんな人?
やっぱ、ママみたいな人~?(笑)』


空気を読まないルミは、マツに声を掛けて。


カチッとマツの、ライターの音が響いて。



『…全然違う。
俺はむしろ、頭カラッポですぐヤらせてくれる女の方が好きなんだよ。
つーか、用事思い出したから、また来るわ。』


それだけ言ってマツは、店を出た。


戸惑うようにルミは、その背中を見送る。



『…ママ、マツさん怒ってなかった?』


不安そうに、ルミが聞いてきて。


あたしはため息を混じらせた。



「…多分ね。
でも、ルミちゃんが気にすることじゃないよ。
今日は、“特別な日”だからさ。」


少し笑いかけあたしは、煙草を咥えた。


強い風がカタカタと窓を揺らし、真っ暗闇に映えるように雪が舞って。


“寒いね”って言葉が日常になったのは、いつの頃からだろう。


隼人が居ない日常に諦めを感じるようになったのは、いつの頃からだろう。


それでもあたしは、隼人のことを忘れたくなかった。


忘れることなんか、出来るはずがなかったんだ。


寂しがり屋のあの人のことをあたしまで忘れてしまったら、

きっと本当に誰も知らなくなるから。


あの人の存在が、この世に確かにあったことを。


証明出来るのはきっともぉ、あたしだけだろうから。




< 272 / 287 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop