粉雪
結局あれから雨は降らず、空には眩いばかりの星空が広がっていた。


見上げた星空に目を細めていると、

自分の存在がいかにちっぽけなものなかを思い知らされてるようで。


考えることをやめてしまった脳に、この星空を記憶させることしか出来なかった。





「…星、凄いね…。」


『あぁ、田舎だしな。
サンルーフ開けてやるよ。』


同じように空を眺めた隼人は、開閉のスイッチを入れた。


一体どれだけの時間、二人で星を眺めていただろう。


会話なんてしなかった。


でも何故か、不思議と安心していた自分が居た。




あの日一緒に見た星空は、あたし達に束の間の安らぎを与えてくれたね。


毎日慌しく生きるあたしと、神経を研ぎ澄ませて生きる隼人。


ホントは、望みはいっぱいあったんだよ?


だけど、全て捨てても良かった。


出来ることなら、アンタと一緒にこんな風に何も無い街で、

誰の目も気にすることなく生きたかった。




ねぇ、隼人…


きっとあたしは、もぉこの時にはアンタのことが好きだったのかもしれない。


だけど、そんなことにも気付かなかったんだ。


アンタの助手席でスカルプチャーの香りに包まれていると、ただ安心してた。


“怖い”なんて、出会った時から思ったことがなかったよ。


だって隼人は、最初からずっと、あたしに優しかったもん。


隼人を愛して、良かったよ。


イッパイ傷つけあったけど、それでも良かった。



アンタが居ない日常は今、虚しいばかりなんだ。


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