ウイニングボール

ふざけるな……。

 6回表、0-8。草野球チームの攻撃。簡単に2アウトを取られバッターは遊佐父。この試合、チーム内で唯一ちゃんとしたヒットを打っている。

「遊んでやろうか」
「ああ、ビビらせてやろうぜ」

 相手バッテリーはマウンド上で何かを相談していた。勿論草野球チームには聞こえていない。

「遊佐さん打ってくれよ~」

 ベンチでチームのオジサン達が応援する。遊佐父は任せろとばかりに頷くとバットを構えた。相手投手は応援をするベンチを睨みつけると思い切り振りかぶって投げた。
 
「…………っ!!」

 ボールはストライクゾーンを大きく外れ、まるで狙いすましたかのようにバットを持つ遊佐父の右手に向かっていった。

「親父!!」
「おじさん!」

 ボールはそのまま右手の指に直撃した。心配した唯華達は遊佐父に近寄ると代走を頼みベンチで怪我が無いか確かめる事にした。

「すまねえ……これじゃ投げられねえわ」

 遊佐父は自分の手を見つめ言った。痛くて指が動かせないらしい。その間に次のバッターは三振にとられていた。

「どうしよう……おじさん以外に投げれる人なんていないよ」

 平松がそう呟くとチーム内から、もう終わりにしようと言う声が漏れ出した。

「……ふざけんな」

 その時、ベンチに座っていた祐樹が呟いた。ホントに小さい呟きで誰もちゃんとは聞き取れていなかった。

「……国崎くん?」
「こんなの野球じゃねぇよ……」

 唯華が声をかけると祐樹はそう言って上着を脱いだ。

「俺が投げる」

 怪我をした遊佐父に近寄るとグローブを借りて祐樹はチームを見渡して言った。
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