ウイニングボール

出会い

 立ち止まって自分達を見ている祐樹にボールを磨いていた少年が気づいた。

「どうしたの?」

 少年は祐樹に対してそう質問した。それは見られていたのが嫌だったからとか、そういった雰囲気ではなかった。

「……なんで? この学校には野球部はなかったはずじゃ」

 祐樹は少年の質問には答えずそんな事を呟いていた。この学校に入学する前に野球部が無い事は確かめたのに……。祐樹はそんな事を考えていた。

「いや、野球部じゃないよ。見たとおり2人しかいないしね」
「それより、もしかしてお前って今日来るはずだった転校生じゃねぇか?」

 素振りをしていた少年はいつの間にか近くに来ていたようだ。彼は少し不良っぽい見た目をしている。先に話しかけてきた少年は眼鏡をかけていて人の良さそうな感じだ。

「確かに俺は転校生だ。それより何で2人だけで練習なんかしてたんだ?」
「僕たちは野球部を作るのが夢なんだ。野球部を作って皆で最高の思い出をつくりたいんだ」

 祐樹の問いに眼鏡の少年が答える。よりによって何で野球なんだ? 団体競技なら他にもあるだろ。そう思いながらも祐樹は話を続けようとした。

「転校生って事は、あの野球の名門の星凪高校から来たんだよね!?」
「そうだけど……」
「なら僕たちに野球を教えてくれないかな!?」

 そんな事まで知られていた事に祐樹は驚いた。同時に野球を教える? じょうだんじゃない、とも思った。

「この学校じゃ野球は出来ないだろ?」

 そう。祐樹はこの学校に野球部は作れないのを知っていたからこそここの学校を選んだのだ。春紗学園は去年まで女子高だった。今年から共学だが男子は殆んど入学していなかった。祐樹を入れて7人だ。

「7人じゃ野球は出来ない。それに全員がやるとは限らない」
「うん。だから僕たちが3年になった時に部が出来ればそれでいいんだ」

 眼鏡の少年は穏やかにそう答えた。  
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