青碧の魔術師(黄昏の神々)
「魅了……ですか? それは一体何ですか」


不思議そうに呟くイシスに、シュリが、やけに丁寧に説明を始めた。

それは、その場にいた関係者、全員に対する物でもあった。


「言葉通りだよ。会う者全てを虜にする。虜となった者は、全て俺の傀儡になるんだ」

「傀儡……」


イシスの呟きに、シュリの顔が苦痛に歪む。

だが、彼の苦悩は誰も知るよしは無かった。

外套のフードを、目深に被っているせいで。

そんなシュリが、声音一つ変えないまま言った。

「俺以外の言葉は、一切受け入れない、ぐくつの事だ。『死ね』と言えばその場で死ぬし、たとえ、愛し合う恋人同士でも、『殺し合え』と言えば躊躇う事無く殺し合う。俺の姿を見た者は、例外無く傀儡となる。それが『魅了』だ」

「シュリ……、いや、ハスターはね、自分の意思にかかわらず、『魅了』を発動させてしまうんだ。勿論、シュリが例に上げた様な事は、命じた事はないよ。彼の名誉にかけてね」


シュリの言葉をフォローする様に漣が、横槍を入れる。

シュリの気配が、漣を伺う様に突き刺さるが、すぐに柔らかいものに成り代わった。


「あんたが、俺の事をそういう風に考えているとは思わなかったよ……」

「ひっ……酷いよぉ、しゅり……お父さんが、何したってゆーのっ」


よよと、泣き崩れて見せる漣に、シュリが呆れた声を上げる。


「そういうふざけた態度が、嫌なんだよ。それに、人を仮名で呼ぶな。鬱陶しい」

「何時から、そんな風になったのかねぇ……。昔は何処に行くにも『おとうちゃま、ぼくも行く』って言って、着いて回って居たのに……」


二人の会話に、目を点にする者、はたまた呆然とする者も居たが、それらを意に解さないのが、シュリと漣、親子だ。

彼らの、掛け合い漫才的会話に、にこにこ笑って動じないのが、イシスだった。


「一体、何時の話だよ……」


溜め息と共に、吐き出す物は諦め。

シュリは、椅子に深く腰掛け直すと、片手でフードの中の顔を覆った。

クスッと小さく笑う声。

それがシュリの隣から聞こえる。

声のした方向を見てみると、イシスが彼に向けて破顔一笑していた。
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