青碧の魔術師(黄昏の神々)
「契約は、神聖なものだから当人達だけでやんなきゃいけないの。おいら達はお邪魔虫だから、出ていこーなっ!!」

「なっ!! いきなりかっ!! おいっ!! 猫っっ!!」

ズルズルと物凄い勢いでロイは、エステルのズボンの裾をくわえ、引きずって行く。

ロイが、ただの猫で無い所と言えば、エステルを引きずる馬鹿力、と、言う所か。


「おいっ!! 魔術師!! お前こいつの主だろう! こいつをどうにか…………」

「…………」

「…………」


エステルの声が遠ざかり、扉が閉まる音がして、辺りはしんと静まり返った。

その静寂を破って、忍び笑いが、シュリの唇から漏れ聞こえる。

イシスは、事の顛末を呆然と見ていた。


「お兄様ったら……。慌ただしく、行ってしまわれましたわ」

「そうだな」


残された二人は、溜め息を付く。

二人同時に付いた溜め息に、思わず見合って笑いが漏れる。


シュリは何時もの様に唐突に笑いを収めると、イシスを見つめた。

イシスはそんなシュリを見て、不思議そうに首を傾げた。


「急に表情が無くなるのですね」


イシスの問い掛けに、シュリは、言い澱んだ。


『事実を伝えるべきか……。それとも、長い付き合いになる訳でも無い、無視するべきか』


だが、シュリはイシスに事実を告白していた。


「俺は、感情と言うものが理解出来ない。笑ったり、泣いたり、怒ったり……俺の感情の大半は、他人を模倣した処世術と言う奴だ……」

「まぁ……。どうしてそのような事に……」


イシスの瞳が泣きそうに潤む。

彼女の知るシュリは、決してそんな事はなかった。

十八の少年の彼から今の彼迄の間のシュリをイシスは知らない。


『セレナさんの私の知る彼とは少し違うと言う言葉はこの事だったのでしょうか?』



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