青碧の魔術師(黄昏の神々)

魔術師、ふたり

「台風一過とは、こう言う事を言うんだろうねぇ……」


突如、空中から降り注いだ男の声。

シュリの顔が、みるみると歪んでいく。

彼が天を仰ぐと、そこにはシュリより一回りは歳上の、元美青年と想像がつきそうな男が、宙に浮かんでいた。


「そんな、ありありと、嫌そうな顔をしなくても、良いと思うんだけどなぁ」

「何しに来た」

「あぁ……。速攻で切り捨てたよ。この子は……」


残念そうに沈む声のわりには、態度はそうでもない。

男は、イシスの消えた方角を見下ろして、シュリに言った。


「相変わらず可愛いよね。セレナちゃん」

「イシスだ。彼女は」

「んー。でも、純度99%で、セレナちゃんなんだけどなぁ……」

「それでも、だ」


シュリが、しかめた顔を直一層しかめて、男を見る。


「いい加減、降りて来たらどうだ? 首が痛い」


仰いだ首を元に戻し、痛い部分をさする。

男がシュリのすぐ傍らに降りてきた。


「悪い、悪い」

「はっ! 悪い? 露程も思ってないくせに」


悪態をつくシュリに、男は目をパチクリとさせて彼を見た。


「もしかして、ご機嫌斜め? んでもって斜めの原因って私かい?」


シュリが男を一瞥する。

シュリの近くにいる男は、どういう訳か、存在感が薄かった。

それもそのはず、男の姿が微妙に透けて、ところどころ向こう側の景色が見える。

幽霊にしては、質感が有りすぎ、人間にしてはなさすぎる。


「何を企んでいる」

「何にも……? 気にし過ぎだよ。お前」


明るく笑いかける男の腹が見えない。

ここに現れると言う事が既にまれだと言うのに。



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