青碧の魔術師(黄昏の神々)
そんなリスノー伯を、シュリは冷ややかな瞳でねめつけて、


「あんたは俺に、傷ひとつ付けられない。騎士が、鞘を投げ捨てるとは愚の骨頂。そんな事も判らなければ、勝てるものも勝てない」


強い口調で言い放つ。

シュリの態度に、単細胞なリスノー伯は、顔を憤怒の表情に変えて、今一度、突進してきた。


「知った事の様に抜かしおって!」


怒声と憤怒にまみれたリスノー伯に、『冷静』の二文字は無い。

大振りの剣を振りかぶると、三度、四度とシュリの目前に振り下ろす。

シュリは、軽く手首を返し、アクリル板を器用に動かして、リスノー伯の打ち込みを難無く受け止めた。


「くっ!」


何度打ち込んでも、シュリの回りを巡る壁はびくともせず、悪戯にリスノー伯の体力を奪っていく。


「そんな物で身を守ろうなどと、卑怯だとは思わんのかっ!」


まくし立てるリスノー伯に、シュリはどこ吹く風のようだ。


「戦いに卑怯もくそもあるか。魔術師が、出来上がった魔術を試してみて何が悪い」

「この……腐れ魔術師がっ!!」


シュリの言葉に、逆上するリスノー伯。

彼は、シュリがわざと自分を苛立たせている、と言う事に気付かずに、まんまとシュリの思惑に嵌められて行く。



何度目かの打ち込みに、剣の刃もこぼれはじめてきたが、実は、シュリの魔術の壁も綻びを見せ始めていた。


『成る程……』


壁に当たる刃の重さと、それによって壁に穿たれる傷の出来具合を計算して、シュリがニンマリと笑う。


『まだまだ改良の余地が有るな……。あの馬鹿も、ただの馬鹿では無いか……。盲打ちに見えて、そのじつ的確に同じ場所を打ってくる。腐っても、鯛って訳か』


本人が聞けば、大騒ぎしそうな事を心中で呟いて、シュリは無造作に、出した時と同じく右腕の一降りで、アクリル板の壁を消し去った。

それと同時に、襲い来る剣をかわす為、必要最小限の動きで左へ避ける。

剣の切っ先が、ギリギリの所でシュリの横を掠めた。

< 77 / 130 >

この作品をシェア

pagetop