好きだから、別れよう。


しばらくして、電車の発車のメロディーが鳴り始めた。


「あっ、ヤバイ。俺、乗らなきゃ」


慌てて電車に乗り込もうとした彼に、電車の中から声がした。


「おーい!マサキ!なにやってんだよ、電車出ちまうぞ〜!」


その声の男性は彼の上司のようで、彼は男性に軽く頭を下げながら、電車に乗り込んでいった。



マサキ…さん。



心の中で呟きながら、いつものように彼の乗った電車を見送る。




ただ、いつもと違っていたことが、ひとつ。

それは…





いつもは私に背を向けている彼が、



今日は私を見て、


「約束、ちゃんと守れよ」


と、


右手の小指を立てて、私に笑っていたんだ――。









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