好きだから、別れよう。



――いつもと同じ朝。


最寄駅から電車に乗る。



俺、政木愁平。









してる人はわかると思うんだけど、電車通勤って、毎日大体同じ車両の同じ席に乗りたいんだよね。



なんか、自分の指定席!!みたいな、さ。





俺の指定席は、最後尾からふたつ目の車両の、最後尾側。


最後尾は女性専用車両だから、残念なことに俺は乗れない。



…と言っても、俺は席に座らないんだけど。





昔は、ちゃっかり座ってた。


でも、そしたら具合の悪いおじいさんが立ったまま乗車してたみたいで…


おじいさん、電車の停車の衝撃を自分の力で支えきれなくて、倒れた。





後で聞いた話では、おじいさんは、倒れる時に慌てて出した腕を骨折してしまったらしい。






その時、自分が情けなくなった。






健康で、足腰もまだ強いのに、楽をしたくて座席に腰掛けていた自分。



同じ車両にいたのに、おじいさんの様子に気付けなかった自分。







偽善って思われるかもしれないけど、それ以来、俺は電車で座らなくなった。








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