最後の春
「美樹いるかなぁ」

宮田はあたりを見渡しながら言った。海岸通はその名前のとおり海に直面して道路が続いている。海はまだシーズンではないのでサーファーが数人いる程度でもちろん、海の家なんかあるわけがない。

「あの人が言ったことが本当ならいる可能性は高い。俺たちは最近の長野の顔を知らないから宮田さん頼んだ」

長原が宮田に言った。裕たちは5年長野と会っていないので今の長野の顔を知るわけがない。

「私も中学までだから2年たってるし余り期待しないでね」

宮田も少し自信がなさそうだった。裕は道路に立っている道案内の看板を見た。海岸通から人が通りそうな道といえば夢ヶ咲大通りへ続く道しかない。

「こっちの大通りに続く道を歩いて探してみよう」

どれぐらい歩いただろうか。大通りに続く道をひたすらあるいてみたが長野らしき人物は見ることはできなかった。裕たちは少し休憩をとることにしファーストフード店に入ることにした。

「あの爺さん嘘ついたってことはないよね?」
「うーん、それはないと思うんだけどなぁ」
「それはないと思う理由は?」
「なんとなく」
「なんとなく?」
「嘘つくぐらいならあんな言葉伝えないと思うんだよね」
「今は泉ちゃんの『なんとなく』を信じるしかないわけですな」
「そういうわけです」
「まぁ、今日一日で見つかんなくてもまた来ればいいし、俺は泉ちゃんについて行きますよ」

土田は納得したのか、またカメラを回し始めた。店内は大きな窓があり、そこから海が広がっている。

「この後も美樹を探してみる?」

宮田が裕に言った。

「大通りまで出て見つけることができなかったら長野のことはまた次回探すことにして映画制作の資料集めをしようと思っている」
「映画制作の資料?」
「みんなで製作するんだから写真とか撮っておいた方がイメージしやすいと思うんだ。平日に何回もこれるところじゃないし」
「キミもちゃんと考えてるんだね。」
「一応部長なので」
「ねぇ、長原くんはどう思う?」

宮田が長原の意見を聞いてみた。が、長原はその言葉が届いてないのか無視してるのか窓の外に視線を向けたまま返事をしない。

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