優しい気持ち
序章
三月中旬のある日、二十二時五十八分。

店の電話が鳴った。
一時の休息も束の間、お客がついた。

「おい、トモ!客!」

「・・・。」

「もう、アシ手配しといたから早く準備しろ!」

「・・・はい。」

この店で働きだして1年、私は夢も希望もなく、日々の時間を費やしていた。

Time is money
時は金なり

私はそれで例えられる『金』を無駄に費やしている。大した給料ももらえないまま。昼夜逆転の生活、それも今の私にとって何の違和感もない生活だった。

「おい、急げ!」

黒のレギンスを履き、上にはピンクの縞模様のタンクトップ。それから白のTシャツとカーディガンを重ねる。

イソジン、ローション、コンドーム、他いろいろを百均で買ったバック(通称、姫バック)に詰める。

「お前、雇ってやってんだから、もっと愛想よくしてくれよ。」

「はい・・・行ってきます。」

今度はどんな人だろう。四十代の禿げたおっさんか、それともメガネをかけた太った人か。

いずれにせよ私は他人に買われた身だ。相手がどんな人であれ、奉仕してやらなければならない。

道中、信号待ちで車が止まる。

助手席からJR盛岡駅の駅前広場に目をやる。すたびれた街だ。何の刺激もない、何の魅力もない、暗い過去だけが眠るこの街。

そうしているうちに客のホテルに着いた。

「トモちゃん、着いたよ。」

「うん。」

車を降り、ドアをバタンと閉める。
すると、直にアシの男は行ってしまった。

「ここ・・・か。」

私は白の蛍光看板を見上げ、大きくため息をついた。

「・・・。」

安そうなホテルだ。出張かなんかで盛岡まで来た客だろう。勝手に想像しながら、客当然のようにホテルのロビーを抜け、エレベーターにのった。

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