優しい気持ち
その人の体がすぐ近くにあるのがわかる。ゆっくりゆっくりその瞬間がおとずれようとしている。

≪きっと大丈夫・・・。いつもどおりのことだ・・・。≫

じっと、ただじっとしていた。
その直後、卓上ランプの光が遮られるのを瞼の上から感じた。

≪くる・・・。≫

一層ほほの筋肉に力を入れ、口を結んだ。

≪一瞬だ、ほんの一瞬だから・・・。≫

何度も言い聞かせる。

≪すぐ終わる・・・。きっとすぐ終わる・・・。≫

緊張した時間が続く。

≪まだだろうか・・・。≫

閉じた瞳を開けようかどうか迷った。
が、開けなかった。それにしても長い。

≪どうしたんだろう・・・?≫

そう思っていると、唇ではない別の部位に感触があった。

「えっ・・・?」

意外なところに触れられたため、びっくりして瞳を開けた。

「・・・。」

「どしたん?固くなって。」

「・・・。」

どう接していいのかわからなかった。

「ん?」

「・・・。」

その時私はどんな表情をしていたのだろう。
その人の瞳にはどんな風に映っていたのだろう。

涙が出た。

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