優しい気持ち
言われるがままに職員室へ連れて行かれる。

ドアを開けると、そこには普段の職員室の雰囲気とは別の、異常に緊迫したものだった。

「君が、井上友子さん・・・。」

うつむいたまま首を縦に振った。
私は入口付近に硬直したまま、じっと立っていた。

何となくわかった・・・。

先生たちの議論は例の事件について。

《どうして私の前で・・・。》
《思い出したくない・・・。》

私はじっと泣くのを我慢していた。
うつむいたまま、顔を強張らせて。

ずっと、ずっと。

スキャンダルになる前に、モミ消す方向にまとまりつつあったその議論。時折、私に非情な質問をしてくる。

「証拠はあるのかね?」

「彼がそういうことするわけがない。」

「君にも問題があったんじゃないのか?」

「いつまでも被害者でいられたらこっちが困るんだよ。」

「君も忘れた方がいい。」

そんな大人たちの心なき声。

私は何も言うことができず、ただうつむいて、泣くのを精一杯我慢して、立っていた。

聞きたくなかった。
そんな大人たちの心の声なんか。

見たくなかった。
誰一人として学校経営を優先しているとしか思えない態度を。

怖かった。
人を信じることが。

そんな思いを隠しながら、ずっと生きてきた。

この仕事を始めたきっかけも、気持の抜けた女を抱いてお金を落としていく馬鹿な男を見て、冷笑するため。男不信を貫く私の意志でもあった。割り切れば何も怖くない。
所詮、男は裸の女が横に寝ていれば満足する生き物。

そのはずだった。

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