切なさに似て…
数分後、シャワーを浴び終えた信浩がリビングへ戻ってきた。軽く拭いただろう髪はポタポタ滴が落ちてきている。


「柚果も入ってくれば?」

まだ濡れた髪をタオルで大雑把に拭くと、洗いたてのタオルを差し出した。


「…いい」

首を左右に振り、差し出されたタオルを突き返す。顔を上げると、眉間に深い皺を作った 信浩と瞳が合わさる。


凝視していられなくて顔を背けると、怪訝そうに表情を曇らせたような気がした。


「濡れたままだと風邪ひく」

そう言うと、タオルを押しつけ強引に抱えさせられる。ふわっと柔軟剤の香りは以前と変わっていない。

「いいよ…」

小さく呟いて、完全に下を向いてしまった顔を上げることはなかった。


信浩がシャワーを浴びている間、考えていたことが脳裏をたやすく横切って、どうしても拒絶してしまう。


今からでも遅くない。

ここにいてはいけない。どこか、ホテルでも探そう。

そう、頭の中で連呼していた。


だって、ほら。

もう、まともに信浩の顔を見ていられない。
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