切なさに似て…
「金の都合なら“彼氏”につけて貰えば?」

敢えて“彼氏”を強調したのにも関わらず、態度を改めることはないようで。


「あいつ給料日前だからさぁー」

さも当たり前に、吐き出された台詞と煙。


ぼわーっと暗闇が押し寄せた部屋を包み隠す煙に、いい加減具合が悪くなった。

とことん、金をせびろうとする態度といい、悪びれた様子すら見せない。


そうでなければ有り得ないと。それでいて育てたなんて、口が裂けても言えないことを、平然と言えてしまう。

本気で言ってるからこそ、心底憎たらくてどうしようもない。


給料日前だから何なんだって話しだ。

だからどうした。そう言い返したいのは山々だけれど、言ったところで火に油。話しは終わりを告げそうにもない。


相手にしてられない。冗談じゃない。

今度こそと、顔を背け足を踏み出す。


立ち去ろうとする私の背に、オバサンもそれ以上口を開かなかった。


煙が立ち込める部屋を後にし、ドアを閉めた先の世界に大きく息を吸い込み肺に空気を送る。

何度か深呼吸をし、込み上げる怒りしか生まれて来ない感情を押し殺すかの様に、朽ちた鉄鋼の階段を一段一段、静かに降りた。


途中立ち寄ったスーパーで、鍋の材料を買い出ししている間。

信浩のマンションまで歩く道のりの間も。


あの人の癪に障る態度。あの一見ゆったり口調でいて癇に障る言い草。


こびりついた頭からは、離れることはなかった。
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