僕は彼女の事を二度愛していた
「あっ。」
思わず声が出た。
加藤がそれに反応した。
「どうした?」
そう言いながら、僕の視線の先を確認した。
「うへぇ、何、あの美人?大河内、お前知り合い?」
別に知り合いなどではない。かと言って、毎朝彼女の事を見て、そして喜んでいるとは、とてもじゃないが言えない。僕は答えに困った。
「あ・・・いや・・・別に・・・。」
「そっか、じゃ、なんで声出した訳?あれか、あんなに美人だからストーカーでもしたか?」
当たらずとも遠からず。無理矢理にでも、ごまかすしかなかった。
「ば、ばかな事言うなよ。ただ、たまにこの駅で見かけるだけだよ。だって、今日は全然違う時間だろ。それなのに、いつも見かける人がいたら驚くだろ?」
「何、ムキになってんだよ。冗談だって。普通、そこ流すところだろ?」
「そりゃ、そうだけど・・・。」
過去の行動の後ろめたさが、僕を臆病にさせ、必死にさせていた。
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