恋愛スキル


「あの……これずっと借りっぱなしで……有り難うございました」


私はずっと渡せなかったハンカチを、ようやくポケットから取り出した。

血がどうしても落ちなくて、クリーニングに出したハンカチは、プロの手によって新品のようになって帰って来た。


そのハンカチを受け取ると、浅利先生はビックリして「わざわざ悪かったなぁ…」と眉をハの字にして笑った。


逆に気をつかわせちゃったかもしれない……。

私は先生の顔を見てそう思った。



先生は、私に“ワガママになって良い"と言ってくれたけど、私は結局、あの日以来先生に打ち明けられずにいた。


今度こそ、先生に何もかもを話して楽になりたい。
……そう思って会いに行くのに、いざ浅利先生を目の当たりにすると、真っ白になって何も言えなくなってしまう。


そんな私を浅利先生は見捨てず、親身になって私の話を聞こうとしてくれる。



そんな先生に、私は甘えているだけだ……。




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