薔薇の欠片

袖を掴むフリをして抱き締めた



「お嬢様、今夜は奥様と旦那様はお仕事による出張でいらっしゃらないので、今夜はお一人でとのことです」



メイドが長い台詞を言い終えた後、

私はそうと言って、テーブルについた。


そのメイドはやっと仕事が終わったという顔でキッチンへ戻っていった。


夕食に口をつける。


一人になんて、なりたくなかったのに。


嫌な予感を抑えることができないのに。





結局あの告白から、私たちは一回も会っていない。

返事ももらっていない。


もしかしたら、嫌われたのかもしれない

と思う。



あんな泣き顔を見せて、

玲さんにあきられてしまったのかもしれない。


街に出ても会うことなんかない。

曇りのときだって、会えない。



離れてしまうと、

よけいに恋しくなってしまう。


< 14 / 201 >

この作品をシェア

pagetop