鉄錆色の唄
鉄錆色の唄
正月。初の日は未だ昇らず。曇天の様相。

早朝の公園にて、前嶋と堀田は待ち合わせていた。午前5時、代々木。

前嶋はいた。公園の入り口に突っ立ち、視線を左右にしながら堀田が現れるのを待っていた。「早くしないか」前嶋は心の中で叫んだ。

辺りは静まり返っている。向かいの大通りには車も走っていない。風の音だけがした。前嶋は公園に年越しの跡が残る。数本の酒缶。カラカラと転がっているだけだった。長めのセ―タの袖をたくし上げ、腕時計に目を落とす。約束の6時はとうに過ぎていた。「どうしたものか」、前嶋が不安から呟く。袖口を捲って晒された肌に、正月の寒さが堪えた。前嶋は袖口を下した。よれよれの袖が露わになった。約束の時から1時間半が過ぎようとしていた。

前嶋は公園に約束通りについた。正確には定時の僅か過ぎに走ってきた。幾度と腕時計に目を配り、その都度小走りにしてきた。ものだから、堀田がいないのを確認すると、損をしたような気分になった。しかし早く来ようと努めた自分を道徳的確信から誇らしく思った。前嶋はそんな男であった。

公園に着くと懐から煙草を取り出した。煙草には赤い文字で「禁煙」と書かれていた。妻の筆跡である。数秒止まったものの、すぐに火を付けて吸った。煙が日よりも先に昇って行く。それを眺めながら前嶋は、自分はやはりつまらない男だな、と思った。



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