着せ替え人形


鮮明に彼女の顔が思い出される。
思い出なんてそんなもんだ。
無理して忘れた気になっていても、どこか一部を思い出せば全部みごとに蘇ってくる。


「…一ノ瀬さんの好きな人だったんですか?」


こちらを見つめて切なげに問い掛けてくる彼女の目を見たら、
胸の奥のほうが締め付けられるように痛くなった。


「そこは…秘密。
でも、大事な存在だったのは確かだよ」


自分でも驚くほど、自分の感情に素直になれていた。


「なんだか…一ノ瀬さんのこと、もっと軽い人なのかと思ってました。
意外と真面目な恋愛してるんですね」


「悪かったな、毎度毎度軽率なことばっかりして」


自分で言っていて、少し恥ずかしくなってきた。


「奈津子は…?
今まで強いて聞いたことなかったけど、彼氏とかいないの?」


そう言うと、彼女は困ったように笑ってなかなか口を開かなかった。


「…多分、一ノ瀬さんが初めて声をかけてくれたときに恋人がいたとしたら
あたしはこの話には乗らなかったと思います」


…確かにそうだろうな。


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