着せ替え人形
「今日はいろいろとありがとうございました。
一ノ瀬さんと改めてゆっくりお話できて嬉しかったです」
改札の前で立ち止まると、彼女はそう言った。
「こちらこそありがとう。
高宮も君に会えて喜んでたし」
「よろしくお伝えくださいね。
それじゃ、おやすみなさい」
頭をさげて、こちらに背を向ける彼女。
徐々に遠ざかる影を見たら、無性に切なくなって…
帰らせてはいけない。
そう思った瞬間、無意識のうちに彼女の腕をつかんでいた。
「…どうしました?」
かなり驚いたんだろう。
びくっと肩を震わせて、彼女が振り返った。
「一つだけ言い残したことがあったから…」
何で自分はこんなに余裕を無くしているんだろう。
まともに彼女の目も見れない。
「何ですか、改まって」
内心余裕も何もない俺とは反対に、
声のトーンを下げて、落ち着いた声で彼女は言った。
「…俺のこと信用できなくなったら、いつでも辞職してくれて構わないから」