着せ替え人形


一ノ瀬さんとドライブなんて初めてだから、緊張してしまう。


家の鍵を閉めて、彼も私の隣に乗り込んだ。


「奈津子の明日の出社時間は?」


アクセルを踏むと同時に彼が尋ねた。


ハンドルを持つ手についつい目がいってしまう。


「9時ですけど」


「なら余裕だな」


「そんなにかかるんですか?」


「それは君次第かな。
まあとりあえず長旅になるから寝てなよ。
着いたら起こすから」


長旅って…予想外なんですけど。


「どこまで行くんですか?」


「着いてからのお楽しみ。
はい、早く目閉じて」


そう言われて、従わないわけにはいかないだろう。


彼の言葉に有無を言わないのが、二人の間での暗黙の了解。


目を瞑って窓に頭をもたれかけると、適度な疲労と心地よい揺れですぐに眠ってしまった。




よく覚えてないけど、すごく気持ちのいい夢を見ていたような気がする。


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