大人げない大人
「三千六十円になります。」
「はい、三千百円。」
「じゃあ、四十円のおつり。・・・・・それから、お客さん時間に敏感になり過ぎちゃいけませんよ。奥さんを大事にしなくちゃね。」
と運転手は、最初とはまるっきり違う明るい笑顔で、正の顔を覗き込んだ。

正は、まだ夢の記憶が覚めておらず、運転手の顔をちらりと見ると、すぐにタクシーから降りた。外は夏なのに冷えていて、ボーっとしていた頭が、ようやく覚めてきた。
後を振り返ると、正が乗っていたタクシーがまだそこにいた。運転手のおじさんは、正を見つめていた。
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