雨夜の月
「あ、ホントだ。嵐がいる」


嵐は私たちよりも、かなり後ろで並んでいたが、多分同じバスに乗る筈だ。


避けたい気分。


「歩こうかなぁ…」

「ん?付き合うよ?」


千里は居心地が良い。

二人で列から外れて歩き出した。


「涼しいから気持ち良いね」


千里が暗くなった空を仰いだ。
私もつられて仰いでみる。



何だか長かった1日。

新たに加わった感情と、改めて知った気持ち。

私は、それでも嵐が好きで、辛くても好きで、動くことができないなら、もう…無理には動かそうとせずに、


嵐の傍で、嵐を見ていれるなら、胸の奥に秘めて笑っていよう。



好き。
彼女がいても好き。

それが、今の私の全て。


「よしッ!!」


握り拳を千里の腕に当てた。


「どしたの?」


奇行に戸惑う千里。
その顔が可笑しくて、堪らず吹き出した。


二人でケラケラ笑っていると、

「お前ら…歩くの早ぇよ…」

と背後で嵐の声がした。


振り返ると、嵐は一人で息を切らしている。


「何してんの?」

「バス待ち…ダルいんだよ」


三人で歩く帰り道。

嵐に泣かされたコンビと、泣かした本人。

奇妙な三人。


大切な関係。


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