雨夜の月

‥朧月夜‥

嵐のリレーは、記憶の隅にも残らない程見ていなかった。

彼女の視線に気付いたことで、直視できなかったのだ。


「俺見てたか?なんて聞いてくるよ。あのバカは」

嵐を好きだった千里の解説付き。



砂埃やら乾いた汗やらで、体に気持ち悪さを残して、体育大会は終わった。

「行こっか」


千里と約束の駅へと向かう。

電車の中で、千里は念を押す様に言った。


「嵐と彼女は、まだ別れてないし別れるわけじゃない」



待ち合わせの駅で、嵐が来るのを待つ。

暫く待って、片思い気分が溢れてきた。


お互いに慕う気持ちはあっても、片思いには変わりない。
責める心と想う心が、同じ大きさで存在していた。


「嵐遅いね」


ふと顔を上げると、夕闇に灯りだす街灯が目に入った。

「約束忘れたかな?」

「まさか!」



千里は鞄の中から携帯を取り出して、嵐に電話を掛けた。


「ん?出ないな」


あの時、私を見ていた彼女の視線を思い出した。

「彼女と一緒かもしれないよ」


私は街灯を見上げたまま、力なく呟いた。



「ま、優先すべき立場だからね」


背中に千里の手を感じ、今此処にいる自分を情けないとさえ思った。

「もう少し待ってみようよ」



本当は、もう逃げてしまいたい。

この状況からも、自分の気持ちからも…。


< 51 / 65 >

この作品をシェア

pagetop