-三日月の雫-
渇愛
次の日の朝。
いつも雫希と出会す時間に家を出たが、そこに雫希の姿は無かった。



代わりに、雫希の弁当を持ったまま辺りを見渡す小野寺の祖母さんが居た。



「それ、渡しときますよ」



どんなに心が曇っていても、笑顔を作るのは昔から得意だ。



「じゃあ……お願いねっ」


「はいっ」



こうして作った笑顔で俺は、雫希と会う為のキッカケを受け取った。




昼休みになり、自分を訪ねてきた俺に雫希は困ったように瞳を揺らしていた。



そんな雫希を出来るだけ明るい声で、教室から連れ出す。



さっきからずっと黙ったまま、雫希は俺の後ろを付いている。



昨日の病室でのことが引っかかっているんだろう。
時折俺を見上げる視線は、どこか複雑な表情をしていた。



適当な空き教室に入るなり、



「手、洗ってくるね」



俺から逃げ出そうとする雫希の背中に、


「……聞いてたんだろ? 昨日の会話」


「っ!?」



声をかけて足を止めた。
そのまま勢い任せに、雫希の手を掴んでこちらを向かせる。


反射的に振り返った雫希を俺は、笑顔の消えた表情で見下ろした。




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