紺色の海、緋色の空

記憶の欠片を巡る

4


その夜、ホテルに戻った僕は、飛行機の中で読んで以来鞄の底にしまい込んでいた一冊の本を取り出した。

「何それ?」

バスルームから声がした。

「漱石だよ」

僕はベッドに腰を下ろし、単行本の表紙をシロナに見せた。

「そーせき?」

「夏目漱石。百年も昔の小説家さ」

「変な名前」

「そうかな」

「それになんだかタイトルも難しい漢字ね。なんて読むの?」

「ロンドン塔」

「へえ!」

シロナは僕の隣りに座り、興味深そうに本を覗き込んだ。

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